大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和57年(ワ)356号 判決

原告

竹本成央こと呉成文

ほか一名

被告

高尾百利明

ほか一名

主文

一  被告李正一は原告呉成文に対し、金一二六万六四五四円及びこれに対する昭和五四年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告李正一は原告伊藤春美に対し、金二五五万九八六五円及びこれに対する右同日から支払済みまで右同割合による金員を支払え。

三  原告らの被告高尾百利明に対する請求及び同李正一に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告李正一の負担とする。

五  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告呉成文に対し金二九一万六四五四円、同伊藤春美に対し金一〇四五万九八六五円及び右各金員に対する昭和五四年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告高尾)

1  原告らの被告高尾に対する請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五四年三月一〇日午後一〇時二〇分頃、広島市南区仁保新町一丁目二番二六号先国道二号線路上において、被告李正一運転の普通乗用自動車(以下、李車という)に原告両名が同乗して、先行する被告高尾百利明運転の普通乗用自動車(以下、高尾車という)を追越すべく中央車線に出たところ、高尾車が急に進路を変更したため、両車が接触し、李車は中央分離帯を乗り越えて反対車線に進入し、おりから対向してきた普通乗用自動車及び大型貨物自動車に次々に衝突し、その結果、原告両名は後記のような傷害を受け、かつ、物損を被つた。

2  被告らの責任

(一) 被告李は李車を、同高尾は高尾車をそれぞれ保有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、いずれも自賠法三条による損害賠償責任がある。

(二) 被告高尾は、車線を変更するにあたつては後方の車輌の状況を注視し、安全を確認したうえで車線変更をすべきであるのに、これを怠つたうえ、時速約一〇〇キロメートルの高速のまま中央車線に出た過失がある。また、被告李は、高尾車を追越すにあたり、前方の同車の状況を注視し、安全を確認したうえで追越すべきであるのに、これを怠り、高速で同車を追越そうとした過失がある。本件事故は、被告らの右各過失が競合して発生したものであるから、被告らは民法七〇九条、七一九条により、連帯して原告らの損害を賠償する義務がある。

3  原告らの受傷

(一) 原告呉

(1) 本件事故によつて顔面裂創、頭部外傷、左上腕骨骨折、外傷性歯根膜炎、歯牙脱落等の傷害を受け、次のとおり入・通院して治療を受けた。

イ 昭和五四年三月一〇日から六月三日まで八六日間入院

ロ その後一日通院

ハ 同年九月二九日から一〇月一〇日まで一二日間入院

ニ 同年一〇月一一日から一一月一日までのうち一〇日間入院、一一日間通院

ホ 同年一一月二日から昭和五五年三月六日までのうち六日間入院、六日間通院(以上、いずれも河石病院)

ヘ 昭和五四年六月四日から七月四日までのうち七日間本山歯科医院に通院

ト 同年五月二九日から昭和五五年四月一〇日までの間広島市民病院に一四日間通院

チ 昭和五六年三月一四日から同月二〇日まで七日間河石病院に入院

リ 同年三月二一日から四月三日まで同病院に通院

ヌ 同年四月三日及び四日、岸本眼科医院に通院

(2) 上記治療の後、後遺障害として

イ 顔面に合計一六センチメートルの醜状瘢痕、眼裂裂傷瘢痕(自賠法施行令二条別表一二級一三号該当)

ロ 左上腕の神経障害

ハ 七歯に対する歯科補綴(同一二級三号該当)を残した。これらは併合して同一一級に該当する。

(二) 原告伊藤

(1) 本件事故によつて頭部外傷(意識障害)、左上腕骨骨折、頭蓋底骨折の疑、骨盤骨折、左尺骨骨折の傷害を受け、次のとおり入・通院して治療を受けた。

イ 昭和五四年三月一〇日から六月三日まで八六日間入院

ロ 同年六月四日から一二月二四日まで通院

ハ 同年一二月二五日から同月三一日まで七日間入院

ニ 昭和五五年一月一日から三月二一日まで通院(以上、いずれも河石病院。なお、右(2)(4)の通院実日数は一〇四日)

ホ 上記の間、井尻眼科医院及び田村耳鼻科医院に相当日数通院

(2) 上記治療の後、後遺障害として

イ 毛髪の生え際に三・五センチメートル、左腕上部に一一センチメートル、同下部に六センチメートル、左上腕肘に一・五センチメートルの各醜状瘢痕(七級一二号該当)

ロ 大後頭神経根の圧痛、左腕のしびれ、頭痛、吐気等の神経障害(一四級一〇号該当)

ハ 上腕骨・恥骨の変形

を残した。これらは併合して七級に該当する。

4  原告らの損害

(一) 原告呉

(1) 治療費 三三〇万六三四七円

前記各病院、医院に治療費として右金額を支払つた。

(2) 入院雑費 一二万一〇〇〇円

合計一二一日の入院期間中、雑費として一日につき一〇〇〇円を支出した。

(3) 付添看護料 三四万五〇一〇円

前記の重傷を負つたため、昭和五四年三月一〇日から五月一〇日までの六〇日間、同原告の母が付添看護をし、その看護料として一日につき三〇〇〇円、合計一八万円を要した。また、同年三月一四日から四月二三日までは他に付添婦を依頼し、合計一六万五〇一〇円を支払つた。

(4) 入・通院慰謝料 二〇〇万円

前記のような重傷を受けて入院約四か月、通院約一〇か月の長期治療を余儀なくされ、そのため進学が一年間遅れるなど、重大な肉体的、精神的苦痛を被つた。これを慰謝するには、少くとも二〇〇万円が相当である。

(5) 後遺症慰謝料 四〇〇万円

前記のような後遺障害を残し、現に顔面醜状の程度は甚だしく、絶えず人目を気にしなければならない状態にあるうえ、七歯に補綴を施され、食事にも支障を来しており、その苦痛を慰謝するには少くとも右金額が相当である。

(6) 物損 一四万円

本件事故のため、同原告所有の皮ジヤンパー一着(三万円相当)、時計(オメガ)一個(一〇万円相当)及び靴一足(一万円相当)が破損し、右合計一四万円相当の損害を被つた。

(7) 弁護士費用 三〇万円

(8) 填補

上記の損害に対し、自賠責保険から治療費九五万三九二〇円及び慰謝料五九八万円、国民健康保険から治療費三一万一九八三円、被告李から五万円、以上合計七二九万五九〇三円の支払を受けた。

(9) 小括

上記(1)ないし(7)の合計額から(8)の金額を控除すると二九一万六四五四円となり、これが原告呉の未だ填補されない損害額である。

(二) 原告伊藤

(1) 治療費 一八九万九三二七円

前記各病院、医院に治療費として右金額を支払つた。

(2) 入院雑費 九万三〇〇〇円

合計九三日の入院期間中、雑費として一日につき一〇〇〇円を支出した。

(3) 付添看護料 三一万二〇〇〇円

前記の重傷を負つて意識不明の状態にあつたため、昭和五四年三月一〇日から四月三〇日までの五二日間、同原告の母及び妹が付添看護をし、その看護料として一人一日につき三〇〇〇円、合計三一万二〇〇〇円を要した。

(4) 入・通院慰謝料 二〇〇万円

前記のような重傷を受けて入院約三か月、通院約一〇か月の長期治療を余儀なくされ、重大な肉体的、精神的苦痛を被つた。これを慰謝するには、少くとも二〇〇万円が相当である。

(5) 後遺症慰謝料 九〇〇万円

前記のような後遺障害を残し、特にその醜状瘢痕は右前頭部、左腕上・下部という露出部分にあり、上腕を伸ばすといぼ状になるなど、女子の外貌に著しい醜状を残すものであるから、精神的苦痛を慰謝するには少くとも右金額が相当である。

(6) 物損 三四万七〇〇〇円

本件事故のため、同原告所有の皮ジヤンパー一着(三万円相当)、時計一個(二万七〇〇〇円相当)、ブーツ一足(一万五〇〇〇円相当)、コート・ズボン・ブラウス各一着(四万円相当)、ハンドバツク一個(三万五〇〇〇円相当)、ネツクレス一個(二〇万円相当)が破損し、右合計三四万七〇〇〇円相当の損害を被つた。

(7) 弁護士費用 七〇万円

(8) 填補

上記の損害に対し、自賠責保険から治療費九〇万〇二七〇円、付添看護料九万三〇〇〇円、慰謝料一五〇万円、その他四四万二五三〇円、国民健康保険から治療費四五万八二六二円、被告李から四九万七四〇〇円、以上合計三八九万一四六二円の支払を受けた。

(9) 小括

上記(1)ないし(7)の合計額から(8)の金額を控除すると一〇四五万九八六五円となり、これが同原告の未だ填補されない損害額である。

5  結語

よつて、被告らに対し、連帯して原告呉に二九一万六四五四円、同伊藤に一〇四五万九八六五円及び右各金員に対する昭和五四年三月一〇日(本件事故発生の日)から支払済みまでの、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求原因に対する認否及び反論(被告高尾)

1  請求原因1(事故の発生)のうち、事故発生の日時・場所、李車が高尾車を追越そうとした際両車が接触したこと、右接触後李車が中央分離帯を乗り越えて反対車線に進入し、対向車両と衝突したこと、李車に同乗の原告両名が負傷したこと(その受傷程度を除く)は認めるが、その余の点は否認する。

本件事故は、被告李が李車を運転し、高速で先行する高尾車を追越すに際し、運転操作を誤り、高尾車の右側後部に李車を接触させたために発生したものである。

2  同2(被告らの責任)(一)のうち、被告高尾が高尾車を保有して運行の用に供していたことは認める。

同2(二)のうち、被告高尾の過失に関する主張は争う。同被告に過失がなかつたことは、後記抗弁1において主張するとおりである。

3  同3(原告らの受傷)の詳細な不知。原告呉に主張のような後遺症のあることは認めるが、原告伊藤については後遺症の存在を否認する。

4  同4(原告らの損害)はすべて否認する。

(一) 原告呉について

入院雑費は一日あたり六〇〇円を限度とすべきであり、付添看護の必要期間は昭和五四年三月一〇日から同月二三日までに過ぎず、その間も、職業的付添人がある以上、家族の付添費用は認めるべきではない。慰謝料額は、入・通院に対して一〇〇万円、後遺症について二〇〇万円を限度とすべきである。物損については、購入時の価格をもつて損害額とすることはできない。

(二) 原告伊藤について

入院雑費については前同様であり、付添看護の必要期間は三八日であつて、その間も二名分の看護料を認める必要はない。入・通院期間の慰謝料は九〇万円が相当であり、後遺症は一四級該当とみられるから、これに対する慰謝料は五〇万円が相当である(七級一二号には到底該当しない)。物損の額については前述のとおりである。

三  抗弁(被告高尾)

1  自賠法上の免責

(一) 本件事故当時、被告高尾は時速約七〇キロメートルで高尾車を運転して、三車線の中央車線を直進し、李車はある程度の距離をおいてこれに追従していたが、被告李は高尾車を追越すべく、時速を約八〇キロメートルに上げて高尾車の右側に出ようとした際、運転未熟のためハンドル操作を誤り、右側の中央分離帯に接触しそうになつたため、慌ててハンドルを左に切つたところ自車がスリツプし、自車左前部を高尾車の右後部に接触させた。そのため高尾車は後部が左方に振れて右斜め方向に進み、李車と併進状態になつたとき二回目の接触をしつつ両車とも右斜め前方に進行し、高尾車は急ブレーキにより中央分離帯上に前輪を乗り上げて急停車したが、李車はそのまま中央分離帯を乗り越えて対向車線に飛び出し、対向してきた車両に次々に衝突するに至つたものである。被告高尾は、李車に接触されるまで終始直進しており、原告ら主張のように右に車線変更したことはない。

以上のとおり、本件事故は専ら被告李の過失によつて発生したものであつて、被告高尾には何らの過失もない。

(二) 本件事故当時、高尾車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつた

2  過失相殺

仮に被告高尾に何らかの過失があつたとしても、本件事故は、中学校の同級生である原告呉、被告高尾、同李らが友人や知合の女性らとともにドライブを思い立ち、高尾車、李車及び訴外栗原正勝運転の乗用自動車に原告両名を含む九名を分乗させ、広島市中心部に向けて高速でドライブ中に発生した事故である。原告両名は李車に同乗し、被告李が高速で高尾車を追越そうとするのを制止し得る立場にあつたものであり、それをしなかつたのは、予期される危険に自らの意思で参加したものというべく、本件事故によつて損害を被つたとしても、その全損害を被告李、同高尾に負担させることは、公平の原則又は信義則に照らし相当ではない。上記の事故状況においては、全損害の五〇パーセントを減額すべきものである。

3  損益相殺

本件事故による損害に対しては、李車及び高尾車の各自賠責保険から、原告呉に対し合計八三八万円、同伊藤に対し合計三九〇万円の支払がなされたから、各損害額からこれらを控除すべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実は否認し、その主張は争う。被告高尾がいうように、先ず李車が高尾車右側に衝突したとすれば、高尾車は左方向に押し出されるはずであるのに、事実は両車とも右方向に進行しており、このことは、高尾車が李車の直前で右寄りに進路を変えたため、李車が避け切れず接触し、高尾車の右方向への力が勝つてともに右方に進行したことを示している。

同(二)の事実は不知。

2  抗弁2の主張は争う。

3  同3のうち、原告らが自認する填補額を超える部分は否認する。

第三被告李の応訴状況

同被告は適式の呼出しを受けた(当初は公示送達によつたが、後に住所に宛てて呼出しをした)が本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

第四証拠(原告ら及び被告高尾)

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一被告高尾関係

一  請求原因1のうち、事故発生の日時・場所、李車が高尾車を追越そうとした際に両車が接触し、李車が中央分離帯を乗り越えて反対車線に進入し、おりから対向してきた車両と衝突したこと、そのため李車に同乗していた原告両名が負傷したこと(その受傷の程度を除く)、請求原因2(一)のうち、被告高尾が当時高尾車を保有し、自己のため運行の用に供していたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、同被告の抗弁1(自賠法上の免責)について判断する。

1  成立に争いのない甲一四号証、乙八ないし一〇号証、同一一号証の一ないし三及び被告高尾本人尋問の結果によれば、本件事故の態様として、右抗弁1(一)のとおりの事実が認められる。

この点につき、右甲一四号証(原告呉の司法警察員に対する供述調書)及び弁論の全趣旨によつて成立の真正を認める甲二号証(同原告名義の事故発生報告書)中には、李車が高尾車を追越すべく速度を上げて右側に車線変更したとき、前方の高尾車が右に寄つて同一車線に入つたために両車が接触したとの趣旨の記載があり、右乙一〇号証(被告李の司法警察員に対する供述調書)中にも、事故後友人らが、李車が右に出たとき高尾車も右に出たんだろうと話しているのを聞いて、自分もそのように思つた旨の記載がみられる。また、原告呉、同伊藤は、いずれもその本人尋問中で、高尾車が右に寄つてきて李車と接触した旨供述するところである。

しかしながら、被告高尾は、その司法警察員に対する供述調書(前掲乙九号証)及び実況見分調書(同一一号証の一)において、三車線中の中央車線を直進中、いきなり自車右後部に李車の左前部が接触したため、自車後部が左に流れて右斜の前方に進行し、併進状態となつて再度接触したうえ、李車は右側の中央分離帯を乗り越えた旨を述べ、訴外浜昭彦の司法巡査に対する供述調書(前掲乙八号証)の記載もこれによく一致している。右浜は、李車の後方を追従していた訴外栗原正勝運転の乗用自動車助手席に同乗していた者であり、高尾車・李車双方の動きをよく観察し得る位置にあつたとみられるし、その供述内容の具体性に照らしても、十分信用し得るものと考えられる。一方、原告呉及び被告李は、いずれもその供述調書(前掲甲一四号証及び乙一〇号証)中で、結論的に被告高尾や浜が供述するような態様で事故が発生したことがよくわかつた(警察官の説明や実況見分の図面によつてそのことを理解した)旨を述べているし、被告李は自ら立会つた実況見分においても、被告高尾とほぼ同一内容の指示説明を行つている(前掲乙一一号証の三)。原告らは、高尾車が直進中同車右側に李車が接触したのであれば、高尾車は右方ではなく左方に逸走するはずである(したがつて、同車が右方に進行したのは、接触前に高尾自ら右に転把したことによるものである)と主張するけれども、高尾車が接触を受けた部位が右後部フエンダーであること(前掲乙八・九号証、同一一号証の二)、高尾車は時速七〇ないし八〇キロメートル、李車はそれ以上の高速で走行中に生じた接触事故であること(前掲甲一四、乙九号証)、李車は高尾車右後部にかなりの角度をもつて斜めに追突状に接触したこと(前掲乙八号証、一一号証の一・三)を総合すると、高尾車の後尾が左方に流れ、前部がかえつて右斜めに向いてそのまま右前方に進行したとの説明には、十分に合理性があると考えられる。さらに、李車が高尾車を追越すべく右側車線に出たが、中央分離帯に接触しそうになつて慌てて左に転把し、安定を失つて左斜めに進行し高尾車と接触したとの説明(前掲乙八・一〇号証)も、被告李が運転免許を取得後日が浅く、李車を運転するのが当日初めてであつたこと(右同)に照らし、運転未熟者の所為として多分にあり得ることと判断される。

以上の諸点に照らし、前掲甲二号証、同一四号証、乙一〇号証及び原告ら各本人の供述中、前記認定に反する部分は措信できず(むしろ、高尾車が右前方に寄つて来た旨の供述は、最初の接触が起こつた後の同車の動きを云々しているものとも考えられる)、他に前記認定を左右すべき証拠はない。

してみれば、本件事故の原因は、被告李が高尾車の追越しにあたり、運転操作を誤つて自車左前部を高尾車右後部に接触させたことにあり、高尾車は、中央車線を直進中右接触を受けて右前方に進出したに過ぎず、被告高尾がその後の接触や、李車の対向車線逸出を防止することは不可能であつたとみられるから、本件事故発生につき、同被告には過失はないというべきである(なお、同被告は前記のとおり、法定速度を大幅に上廻る高速で運行していたものであるが、李車・栗原車等と抜きつ抜かれつの競走を行つていたような状況は認められないし、李車の追越しを誘発する行動があつたともみられないから、速度違反の一事をもつて、本件事故の原因としての過失を論ずることもできない)。

2  高尾車が本件事故現場に至るまで、高速で進行しながら何らの異常もなかつたこと、李車との二回にわたる接触という非常事態の後も中央分離帯において急停車し得たことからみて、高尾車には構造上の欠陥機能の障害はなかつたと認めることができる。

3  以上の次第で、被告高尾の抗弁1は理由があり、同被告には、本件事故につき自賠法三条による責任がない(民法上の責任も同様)から、原告らの同被告に対する本件請求は、その余の点につき判断するまでもなく、失当として棄却を免れない。

第二被告李関係

一  同被告は、民事訴訟法一四〇条三項により、請求原因事実をすべて自白したものとみなされる。もつとも、原告らの損害(請求原因4)のうち、慰謝料の額及び弁護士費用として同被告に負担させるべき金額をいかに定めるかは、法的判断の問題に属するから、自白の対象から除外すべきものである(なお、後者については、弁護士との報酬契約の内容或いは現実の支払金額につき具体的な主張があればともかく、本件においてその主張はない)。

二  そこで、請求原因事実に基づいてこれらの金額を算定すべきところ、原告呉については、入・通院期間中の苦痛に対する慰謝料として一五〇万円、後遺障害に対するそれとして三〇〇万円(右合計四五〇万円)と定めるのが相当であり、弁護士費用としては、本件訴訟の内容、審理の経過及び認容額等を考慮し、一五万円を被告李に負担させるのが相当である。次に、原告伊藤については、入・通院期間中の慰謝料として一五〇万円、後遺障害に対するそれとして二〇〇万円(右合計三五〇万円)と定めるのが相当である(なお、同原告は、その後遺障害が女子の外貌に著しい醜状を残すものとして、自賠法施行令二条別表七級一二号に該当すると主張するが、この点も法的評価、判断の問題であつて自白の対象とならないし、争いがない事実を前提としても、そのような評価は到底なし得ない)。また、弁護士費用としては、前記の諸点を考慮して三〇万円を被告李に負担させるのが相当である。

三  したがつて、原告らの損害額は次のとおりとなる。

1  原告呉

(一) 治療費 三三〇万六三四七円

(二) 入院雑費 一二万一〇〇〇円

(三) 付添看護料 三四万五〇一〇円

(四) 物損 一四万円

(以上は争いがない。)

(五) 慰謝料 四五〇万円

(六) 填補額 七二九万五九〇三円(争いがない。)

(七) 弁護士費用 一五万円

以上、(一)ないし(五)及び(七)の合計額から(六)を控除した残額一二六万六四五四円

2  原告伊藤

(一) 治療費 一八九万九三二七円

(二) 入院雑費 九万三〇〇〇円

(三) 付添看護料 三一万二〇〇〇円

(四) 物損 三四万七〇〇〇円

(以上は争いがない。)

(五) 慰謝料 三五〇万円

(六) 填補額 三八九万一四六二円(争いがない。)

(七) 弁護士費用 三〇万円

以上、(一)ないし(五)及び(七)の合計額から(六)を控除した残額二五五万九八六五円

三  よつて、原告らの被告李に対する各請求は、上記の各金額と、これらに対する昭和五四年三月一〇日(本件事故発生の日)以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がないことに帰する。

第三結語

以上の次第で、原告両名の被告高尾に対する請求をいずれも棄却し、同李に対する請求を前記の限度で認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田川雄三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例